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「……えーと、俺アレクって言うんだけど、君日本人だよね? 俺の日本語、通じてる?」
アレクの言葉に、香乃斗はコクコクと頷いた。
聞き慣れた言葉を聞いて安心したからか、また香乃斗の目から涙がこぼれた。
「そっか。よかった……とりあえず、涙拭いたら?」
そう言ってアレクはチェック柄のハンカチを差し出してくる。
「安心していいよ。きちんと洗ってあるから。使って」
「あ、ありがどうございま……ずっ」
鼻声で香乃斗がお礼を言うと、アレクは、うっ、と身体を引いた。
「そ、そのハンカチあげるよ。俺別のあるし」
親切にもそう言ってくれるので、涙をぬぐった後、すでに限界だった鼻も豪快に拭かせてもらうと、丁寧に裏返して香乃斗はポケットにしまった。
「……これで、少し落ち着いて話ができるかな」
アレクは人好きのする柔らかい笑顔のまま言うと、かすかに首をかしげて問うた。
「で、どうしたの? フレッドは迷子の観光客じゃないかって言ってたけど、そう? それとも突然真っ暗になって驚いた?」
観光客ではないが迷子な上に突然真っ暗になって大パニックの香乃斗は、どう答えていいのかわからず視線を彷徨わせた。
すると、アレクが軽く息をついて肩をすくめた。
「て、ぶっちゃけ俺らも驚いてるんだけどさ。まだ午後一時廻ったくらいだってのに、いきなり真っ暗になるんだもん」
――なのにグロウはテンション上がって「冒険だ!」とか言って出て行っちゃうし……探す方の身にもなれってんだよ。
思わず愚痴をぶつぶつと呟いたアレクはハッと正気に戻って再び香乃斗に向き合った。
「ごめん。つい愚痴が……そういえば、君の名前はなんて言うの?」
「あ、俺、香乃斗っていいます。初めまして」
にこりと笑う香乃斗に、アレクは目を見開いてまじまじと香乃斗の顔を見つめた。
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