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「あやつ、いずこへ消えた」
「いや、わからん。ヤツの屋敷に遣いを出して調べさせたが、何も変わったところは見つからなんだ。とにも、もとのまま、何も変わっておらん」
「……それは、……いささか不気味じゃな」
「待て! 談合はあとじゃ。巌是胤のいう不審の件(くだり)、いまだ未耳じゃ。それをきいてからでよい」
十のまばらな、どこか老いた鷲を思わせる深く鋭い瞳が闇の中にきらりとひかった。
いうまでもなく、これは葉崎の平和を長年支え続ける大家臣たち――煮ても焼いても喰えぬといわれる葉崎の中枢、老女衆。その面々である。
容貌魁偉な男、巌是胤はそれに似合わずいささか気が小さいのか、敬意を払っているのか。生唾をゴクリと飲むとちらと顔をあげた。が、そのとき、十の瞳の奥で、落ち窪んだ般若のごとき双眸がジロリと彼を射抜いたことを彼は感得したであろうか。――
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