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風
一
夜霧を切り裂くように一陣の風がはしった。
残風におぼろのごとき輪郭が見え、のこり、消えてゆく。
これは、……夢か、現か。
黒きなか、さらに黒き一陣は、もはや、なにものの眼にもとらえることはできない。
ただ、闇夜(あんや)の風が木々を揺らし葉を揺らす。それだけである。
妖風吹き荒ぶそのなかで、
「……死ぬな……」
そんな、微かな、声ともいえぬ声がきこえたが「死ぬな」とはいったい誰を、何を指すのか……
はや、黒き風はどこへ向かう……
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