疾風迅雷

4/16
前へ
/209ページ
次へ
いま、まさに合戦を迎えんとする小国葉崎にある女がいた。 葉崎の国持城、本丸御殿の天守閣でじっとその大きく澄んだ瞳でジリジリと遠く迫りよる大国浅倉の軍勢をみつめているのが、それである。 葉崎の国は昔から、争いごとには縁のない国であった。大国といわれた日はいまや遠いむかしだが。 その頃から、国を治めるもの、つまり国上であるが。この国上たちは葉崎の民を無益なことで失ってはいけない。それを、いやそれだけを頑なに、懸命に信じていた。葉崎の伝統訓辞「攻めず、援ず」はここからきているのかもしれない。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加