第一章 プロローグ

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「あー、かったりぃ仕事だな、まったく……。」 黒髪の男ージャックは、口に出すと余計に気が滅入ることを承知の上で思わず独りごちた。 目の前に広がるのは広大な廃墟の街並み。大半の建造物は半壊し、濃緑のコケに覆われている。 「ったく、今さらゼロの地の調査とはな……じじいもとうとう焼きが回っちまったみたいだな。」 チャネル王国領内、ハザの村近くの森林の奥に存在するこの地はゼロの地、ゼロの遺跡、始まりの地、神降りの街など様々な名前で呼ばれている。 おそらくは古代文明の存在を証明しているであろうこの地は、ジャックにとって大いに興味をそそられる場所であった、かつては。 (前回は国営調査の時だったか……。) 特に何の成果もなく打ち切りとなった調査を思い起こしながらジャックは廃墟の奥へと歩を進めた。 魔術の痕跡を探しながら朽ちた建造物の間をひたすらに進んだが、何の収穫もなく、ただ時間だけが過ぎ去っていった。 そろそろ引き揚げてしまおうか、そんな考えが浮かんだ頃、ジャックは今いる場所が数刻前に一度調べた場所であることに気が付いた。この遺跡の中でも一際目立つ塔のような構造体だ、見間違えるはずがない。 どうやら魔痕感知に集中する余り、円を書くように歩いてしまっていたらしい。 「あちゃー、おれとしたことが……ん?」 (何かが変だ……。魔痕らしきものは感じられない、しかしこの感覚は……。) 「まさか……!?」 先程までの覇気のない表情からどこか歪な笑みへと変わっていく。 なぜならば、その感覚はジャックにとって『歓喜』そのものに近いものだった。
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