嘘つき。

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 ―――そこで彼女は目が覚めた。夢がありありと頭に残ったまま。パジャマが汗でじとっと湿っていた。彼女はため息をつき、ゆっくりとベッドから起き上がる。  じんわり重いパジャマを脱ぎ、会社に行くためにスーツに着替えた。気分がパリッとして、夢の残像が少しずつ薄れ始めた。それから彼女は指輪を薬指にはめ、寝室を出る。  リビングに入ると、既に夫が椅子に座っていた。 「あ、おはよう。すぐ朝ごはん作るからね」  そう言って彼女は台所へ向かう。  何を作ろうか一瞬思案してから、引き出しから包丁を取り出した。冷蔵庫からトマトを出して、さっと水で洗ってから、八等分する。 「人を切り裂き、人を殺めたその包丁で、お前は食事を作るのか」  どこからかそんな声が聞こえた気がしたが、彼女はそれを無視した。  
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