嘘つき。

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 朝の光を受けてきらめく包丁。みずみずしいきゅうりをいとも簡単に輪切りにしていく。さらにレタスも適当に裂かれ、それらが盛られた皿にドレッシングがかけられた。  彼女は皿を自分と夫の食卓に置いた。それから二人分のご飯を盛って、食卓につく。 「いただきます」  彼女は手を合わせてから、サラダに箸を伸ばした。 (……私は嘘つきなんかじゃないわ)  食べながら、彼女は自分に言い聞かせる。それから自分の表情が暗くなっていたことに気づき、無理やり笑顔を作って顔を上げた。 「ねえ、おいしい?」  彼女の問いかけに、夫は何も答えなかった。頷きさえしなければ、息もしなかった。彼は永久に黙っていた。  
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