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時期はずれの蝉の声が、暑さを誘う。
八月十九日。
圭吾にとって、この日だけは幾年過ぎても時間が止まった感覚を味わう、特別な日だった。
だが、今年は違った。
長い歳月を経て、止まったままの時間は夏の風と共に動き出そうとしていた。
「待ち侘びたよ……ようやく、この日が来た」
朝倉宍道が感慨深げに呟く。圭吾はテーブルの縁を見つめ、軽く息を詰めた。
「今日は車か」
「はい」
「そうか」
ソファに深々と身を預け、宍道はしゃがれ声で残念そうに唸る。
「君の新たな門出を祝って、一杯やりたかったが――私は心から君を祝福するよ」
「感謝します、朝倉さん」
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