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元旦
群雄割拠のこの時代にも日の本にいる全員が安心していられる唯一の日に、兵をおこそうなどと考えるものはそういない。
さて、そのめでたい日に少しばかり異質な存在が中国は厳島神社の近くの森にいた。
「おかーさーん!おとーさーん!……どこ行っちゃったんだろう?」
正月らしく紅い着物で着飾り、短いながらもふんわりと上に盛り上げた髪の毛がふわふわと歩く度に動く。
それを留めている簪には金銀の飾りが付き、しゃらりしゃらりと耳に心地よい音をたてている。
どこかの武家の娘でもなければそのような高価なものを身につけてはいられないが、なぜそのような者がこんな森の中で迷子になっているのか。
「もぉー、初日の出見たいのに森からも出られないし……、あっ!リスだ!!」
そして自分が迷子になっているという自覚がなさそうなのでどうしようもない。
生で見たことのなかったリスに感激し、とことこと跡を追いかけている少女。
齢は十くらいだろうか。
ふわふわの栗色の髪に、日本人らしい漆黒の瞳は弱冠眠たそうに細められているがこれは生まれつきの顔だそうだ。
着物の裾からのぞく脚は白く細い。
同じく手も、畑仕事などしたことがないのだろう。豆の一つもなくふっくらとしていて可愛らしい。
美幼女ではない、たぶん。
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