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少女を抱えた毛利元就は、猫本が来た道を引き返すように進んでいく。
やはり猫本一人ではいずれ森から出られなくなっていただろう。
話し相手が出来て嬉しいのか、はたまた抱っこされているのが嬉しいのか、猫本は上機嫌で元就に話しかけていた。
「………でねー、ねこは眠たかったけど頑張って早起きしたんだよ!今までどんなに早くたってもうお日様が出てたのに、こんな早くに起きたのー!すごいでしょー!!」
「日輪は常に神々しいが、日の出のときが最も美しい姿だからな。その気持ちは分かる。ましてや今日は元旦。めでたい日に日輪を拝みたいと思うのは当然のことよ」
「んー。分かんないけどだいたいそんな感じー」
噛み合っているのかいないのかよく分からない会話を続けながら二人は着々と森の出口へと近づいていく。
親のことはとりあえず放っておくことにしたらしい猫本はなおも喋り続ける。
「みどりんの話し方って、テレビの時代劇に出てくる人みたい。堅苦しくないの、それ?」
「慣れたものだ。それより……てれび、とは何ぞ」
そのようなもの、聞いたことがない
この発言が猫本的には信じられなかったらしく、驚嘆の声をあげた。
ちなみにアダ名にも触れない。
「えぇーっ、テレビ知らないの?!」
「……知らぬ」
「テレビっていうのはね、えーっと、お笑い芸人とか芸能人が出るバラエティ番組があってー…。ニュースとかもやってるよ、今日どこどこの誰々さんが亡くなりましたとかって」
「乳酢?何だそれは」
「ぅえ、何って言われても……番組だよ」
「情報を伝える……か。草の者のようなものか」
「分かった?」
まさにテレビの中でしか見ることのできないような存在の人物に子供の言葉足らずな説明で分かるはずもないが……。
「我を誰と思うている。中国領主にして毛利家当主、日輪の申し子毛利元就とは我のことよ。理解出来ぬはずがなかろう」
「すごーい!みどりんって毛利なんだ!!」
わいわいと騒いでいると前が開けた。
どうやら森を抜けたようだ。
「ねこもねー、『毛利猫本』っていうんだよー!」
決して交わることのなかった平行線が、歪み始めた。
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