18人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
日はまだ昇っていなかった。
だが水平線の遥か彼方に、輝く橙色の線が広がっていく。
日の出はもう少しだ。
「な、に……?」
「ねこはー、毛利家の子孫なんだって。戦国時代の有名な武将、毛利……も、も、もとなり?っていう人の。あっ、そういえばみどりんと同じ名前だー!すごーい、偶然かな?」
元就の腕の中にいる少女はそれはそれは楽しそうにニコニコしている。
元就の困惑など余所にして。
言われてみれば不審な点はいくつかあった。
まず一つ
今日はこの辺り一帯に兵を置き、誰も入ってこれないようにしておいたはずなのだ。
元就の部下の過失ということもなくはないが、このような子供一人止めていられないほど自分の駒は弱くないと元就は分かっている。
もう一つ
少女の服装だ。
パッと見ただけではどこぞの姫かとも思うが、着物の質が触ったことのないような手触りだった。
おまけに金銀で出来ていると思った簪もよく見ればそれらよりも遥かに劣るものだと分かる。
しかし、ならば何なのかと聞かれても元就に答える術はない。
最後に一つ
この少女は確かに毛利家の子孫だと言った。
嘘をついているようでも、騙そうとしているのでもないことは少女の様子から分かるがしかし、元就はまだ婚儀すら挙げていない。
云わば独り身なのだ。
そんな元就に子供、ましてや子孫などいるはずもなく、当然少女の言うことにも信憑性はなくなる。
となると猫本は―――――
「遥か先の世より来た我の子孫、か………」
冷徹な智将として世に知られている彼にしては意外過ぎるほどの早さでその答えに辿り着き、なおかつそれを受け入れていた。
そう考える他ないとは言っても、誰しもが一度は戸惑うだろう。
そこをなんなく乗り越えるあたり、流石と言うべきか。
「違うよー、みどりんの子孫じゃなくて毛利元就の子孫だってばー」
まあ、小難しいことなど考えておらず、このけらけらとおかしそうに笑う少女が持つ、不思議な柔らかい雰囲気に当てられたのかもしれないが。
最初のコメントを投稿しよう!