4 ファイアリス

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夜になると、月が真っ暗な空の真上にと、その姿を見せた。 城中が寝静まったように物音一つしない中、大きな白い不思議な文様が施されている水盤を両手に大切そうに持ちバルコニーへと出た。 城の一番端にある部屋のためかバルコニーには階段が備え付けられている。 黒のフード付きのマントを羽織り、手には重い水盤を持ち階段を慎重に下り始める。音を響かせないように、その足元は裸足だ。 城の裏側は、広大な草地になっていて、城の窓からは一帯が一望出来る。 見つかったら、またスカイ様から何かを言われ、次は地下牢に入れられるかもしれない。 でも、いつまでも、こんな扱いを受けたくなかった。少しでも良いから私の話を聞いて欲しい……それだけで良いのに。 辺りを素早く見回し、誰も居ないことを確認すると草地に足を踏み入れる。 草独特の肌触りを感じながら、月の真下になる場所まで一気に駆け出す。 肩で息をしながら何度も人が居ないか確認し、月の真下まで辿り着くと、水盤を置きマントから小瓶を取り出す。 濁りのない透明な水。それを水盤の中に注ぎ込む。 (良し……リナリア。始めるぞ。) デイジーを見て、こくりと頷く。 力のないリナリアに唯一使えるたった一つの通信手段。 遠く離れた1番目と5番目の姉にだけ使えた。他の姉達とは力の性質が異なるためか使えなかった。 水盤を挟みデイジーを正面に、片膝を立て両手を胸の前で組み、昔、教えられた通りに心の中で言葉を紡ぐ。 しばらくすると、水盤から淡く赤い光が浮かび上がった。すべてを包み込む温かい光が周囲を赤く照らす。 .
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