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「グレイス・エヴラールです。何回かお目にかかったことがあるのですが、覚えていませんか?」
照れたように話し出すグレイスに眉を寄せる。
エヴラール家と言えば、シラーでも指折りの名家で公爵の称号を持っているはず。私に近づく意味は……。
……そう、そう言うこと。私に近づいたのは、お姉様に会うためだわ。
まだ、ジュリアお姉様の婚儀が決まっていない。
この男も、自分の目的のために、何も知らない私に近づき、お姉様達に近寄ろうとする人間。
私なんかに近づかなくても……公爵家の力を使えば会えるでしょうに。
こんな手の込んだ真似をしなくても……。
昔を思いだした。胸がズキリと痛む。
こんなことが何回もあった。
お姉さま達に会うために、一人でいる私に近づいて薬草のことを聞くふりをしながら……情報を得ようとする人間に何度も会った。
その度に小さな傷を心に負い一人で悲しんだ。
父王に娘として舞踏会にも出して貰えない私に何の目的もなく会いに来る人などいないのに。
小さく溜め息を付き、悲しみをこらえながらも立ち上がる。
「リナリア様?……」
俯き肩を震わせているリナリアに戸惑い、グレイスが声をかけようとするが、その前にリナリアが駆け出した。
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