タルトの奇跡

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「大丈夫よ。怪しい人ではないから。エヴラール公爵家の嫡子よ。それにリナリアに何もしないから安心して」 そんなに不安げな顔をしていたのだろうか?お姉様が安心させるように髪を撫でる。 「30分だけです。それ以上は許しません。いいですね」 お姉様がグレイスに向かって、きっぱりと伝えるとグレイスは苦笑いしながら頷いた。 「リナ……お母様の所にいます。30分経ったら戻るから。もし何かされそうになった時のためにイヴを置いて行くわ」 そう言うと、お姉様の影となる存在。金の毛並みと3本の七色の尾が目を惹く鳥……イヴが肩から、ふわりと飛び立つ。 「そんなに信用ありませんか?先程伝えた通りなのに」 困ったように腕を組み眉根を寄せるグレイス。 「リナリアを傷つけたら許さないわ。王家を私達を敵に回すと心に刻みなさい」 2人は何を言っているのだろう?私が傷つくようなこと? 「そんなことは絶対にありません。何よりも……大事ですから」 甘い笑みを見せるグレイスにお姉様は溜め息を吐く。 「その言葉を忘れないで。必ずよ。リナ、イヴがいるから安心して。大丈夫何かあったら必ず守るわ」 そう言うと、お姉様は額に口付けをし、何回も振り返りながら森へと姿を消した。 そして、イブはふわりと飛び立ち教会の外の木々に止まりこっちの様子を伺っている。 「そんなに信用ないかな。タルト食べない?今日のは前よりも自信作なんだ」 グレイスが手に持っていた籐のカゴを目の前に差し出す。 カゴからは甘い香りが漂う。 「美味しいですよ。さあ、どうぞ」 迷っていると、目の前をグレイスが通り抜け教会の奥へと入って行く。 イヴを見ると大丈夫だと頷いた。 それに、ぎこちなく頷き、どきどきする胸を押さえグレイスの後へと続いた。 「ここでいいかな?ところでリナリア様の影は何処にいるの?挨拶したかったんだけど」 そう言いながら、手際よくタルトを取り出し切っていく。しかもお茶の用意も抜かりないようだ。 そう言えばデイジー出て行ったきりだわ。どうして、こんな大事な時にいないの?
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