タルトの奇跡

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縋るように見渡しても、勘のいいデイジーにしては珍しく姿が見えない。 「いないのかな?そっか。まあ……そっちの方が」 グレイスが独り言のように呟く。最後の方は聞き取れなかった。 「どうぞ、また気に入ってくれると嬉しいけど」 照れながら差し出されたタルトは、またしても大好きなフルーツタルト。しかも前のより豪華な気がする。 胸が痛い?ううん……ドキドキする。 おずおずとタルトを受け取りグレイスの視線を浴びながら一口頬張る。 美味しい……前のより、さらに美味しい気がする。 それに胸の甘い痛みも胸の高鳴りもグレイスに聞こえるんじゃないかと思うくらいうるさい。 「美味しい?……」 心配そうに伺うグレイスに、ぎこちなく頷く。 「そう、ありがとう。また作るから楽しみに待ってて」 また次……また次があるの?なんで?そうだわ、なぜグレイスがここにいるのか、その理由を聞かないと。 まだ半分残っているタルトの皿を前に置き、戸惑った表情で前に座るグレイスを見る。 「ああ……ここに来た理由かな?」 真っ直ぐにグレイスの目を見ると視線が交差する。そのあと、困ったような照れたような様子で視線を逸らされた。 「リナリア様に会いに来たんだ」 逸らされた瞳がまた交差する。 見詰め合ったまま紡がれた言葉の意味を理解するのに時間がかかった。 私に……アイニキタ? 確かにそう聞こえた。でも私に会いに来る理由なんてないはず。 「半年前……川で鳥を助けていたのは覚えてる?」 いきなり質問され、しばらく思案する。 半年前?……そういえば、川の中州で鳥が怪我をしていたのを助けたわ。確か羽を傷つけて飛べなくて治療したんだわ。 それのことかしら?あの時は近くまで薬草を採りに行った帰りで、デイジーも一緒ではなかったし、周りに誰もいなかったはず。 どうして知っているのしら……。 「その場に僕もいたんだ。木の上で葉を調べていて……それで川の中へ入って行くリナリア様を見かけた」
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