タルトの奇跡

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「研究所の皆に聞いたんだ。君がタルトが好きだって。すごく嬉しそうな顔をするって……それを聞いて作ろうと思った」 皆に聞いた?そう言えば何回か皆とタルトを頬張った覚えがある。そんなに嬉しそうな顔して食べてたのね……自分じゃ気づかなかった。 「君の幸せそうな顔が見たくて一生懸命ずっと作ってたよ。料理長が困り果てるくらいにね」 照れたように笑うグレイスにトクン――と胸が高鳴った。 「やっとで上手く出来たのが……この前のタルトなんだ。まだフルーツタルトしか作れないけど。美味しそうに食べてくれて、こっちまで幸せになった」 そんなことを言われたら、どうしたら良いかわからなくなる。 思わず目を泳がす。 「その時思った。やっぱり一緒にいたいって。少しずつで良いんだ……僕を見て欲しい」 思わず息を飲む。 真っ直ぐな偽りのない言葉と真剣な瞳に囚われる。 握られたままの手も、背中に回された腕も、熱を持ったように熱い。 まるで、私の返事を急かすように。 嫌いではない……でも、最初に見た作ったような笑顔が引っかかる。 良くわからない。 わからない。 どうしたら良いか――わからない。 「ごめん……もしかして苦しめてる?そんな顔は見たくないんだ。さっきも言ったけど、少しづつで良いから僕を見て欲しい」 零れ落ちる涙は何の想いだろう?自分でも泣いている理由が……わからない。 「君が望む時は必ず傍に居るから。苦しい時も寂しい時も……その容姿で辛い思いをした時も」 弾かれるように顔を上げ、グレイスを見上げる。 グレイスが初めて容姿のことを言ったから。 「正直に言うと、半年前のあの時、初めて君を見たんだ。噂では聞いていたけどね……特に興味はなかった」 半年前に初めて?珍しい……この国の人なら、たいがい私の容姿を見ているのに。 「綺麗だった。光があたる髪も、すべてを優しく見ている瞳も。その瞳に僕も映りたいと思ったよ」
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