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「……さっき伝えた言葉に偽りはありません。ずっとリナリア様と一緒に歩んで行きたいと思っています」
そう言うとグレイスが震える私の右手を取る。
見上げると緊張した面持ちは変わらない。だが、私を安心させるように笑顔を見せる。
「ずっと傍にいるから……ずっと傍にいることしか出来ないけど、君が願う限り……この手を離さない。だから僕を少しずつでも良いから見て知って欲しい」
綺麗……グレイスの瞳。その目に嘘も偽りも見えて来ない。
信じてみたい。その言葉を。
その瞳を見ていたら、あることを思い出した。
確か……私、あなたを知ってる。どうして忘れていたんだろう。
そう、鳥を助けた数日後だった。
難しい顔で木を睨んでいた男の人がいた。
何をしているのかわからず、不思議で、後ろの茂みに体を隠し興味本位で、あなたを見ていたの。
すると、いきなり木に抱き付いて何かを確かめているようでポンポンと木肌を確かめていた。
……変な人だと思った。
何かに巻き込まれない内に立ち去ろうとした時だった。
いきなり葉が揺れ、ニャーと言う猫の叫び声が聞こえたと思ったら、いきなり上から猫が落ちて来たのだ。
それを受け止めたグレイスは、ほっとした顔で、木の根元に座り、猫が怪我をしていないか確かめていた優しい瞳に……しばらく目が離せなかった。
慈愛に満ちた安心する温かさ。
「だめですか?…………」
何も答えない私に、落ち込んだ声がかけられる。
その声に気づき、グレイスを見上げると不安そうに、こっちを見下ろしていた。
信じてみてもいい?この人を……私も1歩を踏み出してみたい。
この容姿に自信を持てるように。
この人なら、私の不安な想いも、わかってくれる気がする。王女としてではなく、一人の人間として見てくれる気がする。
手を繋いだまま少し離れる。
話せない私じゃ上手くこの気持ちを伝えることが出来ない。なら――――。
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