月夜にダンスを

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グレイスの声がして振り返ると、ちょっと怒ったような顔で私に近づいて来る。 何で怒ってるの?何かあった? 「また泣いたの?一人で泣くなと言ったのに。次は誰に何を言われた?」 浮かぶ涙をグレイスに見えないように擦り何事もなかったように笑うが、グレイスには通じないようで、すぐに抱き寄せられる。 この腕の中が大好き――グレイスの香りも……っ。 大好きな匂いに違う香りが混じっていることに気づきグレイスの胸を押し返す。 「リナリア?何を怒っている……言ってくれないか?」 思いっきり眉を寄せて顔を顰める。 すると、まるで子供をあやすように髪を撫でられ問いかけられたその言い方……私は大嫌い。 私とグレイスが釣り合っていないと現実を突きつけられるから。 知ってるから……グレイスの人気ぶりを。 公爵家の人間として、生まれた時から確固たる地位。恵まれた容姿に治癒を扱う技量と才能。それはシラーでも有名な話。 グレイスを狙っている令嬢達が多いとお姉様達も噂しているほど。勿論、私には聞こえないように言っているつもりだろうけど……知ってるもん。 私は早く大人になりたかった。 グレイスの横に立っても見劣りしない大人の女性に早くなりたかった。お姉様達みたいに綺麗になりたかった。 何で私だけ毛並みの違う猫みたいに見た目も可愛く無いんだろう?。髪の色や瞳のせいだけじゃない。 これは持って生まれた顔つきと骨格が関係すると私は密かに思っている。
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