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グレイスが近付いてくるのを見ているとデイジーが腕の中からスルリと抜け出した。
「いつ戻ってくるのかとハラハラしたぞ。ありがたく思え。リナリアを引き止めていたんだから」
「ありがとうございます。追って来てくれるかと期待してた部分もありまして……」
苦笑いをして当たり前のように突っ立ったままの私の左手を取り、もう一方の手は腰へと回された。
私が追いかけるのを待ってた?グレイスが……私を?怒って相手にしてくれないと思ったのに。
「お前も性格悪いな。リナリアが出来るはずないだろ?自分から離れた人間は、どんなに大切でも引き止められない性格だ。わかっているだろ……」
デイジーの声が、わずかな旋律が聞こえる夜の空に響く。
「……ごめんリナリア」
違う、グレイスが謝ることじゃない。私が気持ちを上手く伝えなかったから。でも今なら……今だからこそ言わなきゃ。
でないと、これからもすれ違う機会が増えてしまう。伝えなきゃ……。
自分の想いを伝えるのは勇気がいるけど今なら……。
「リナリア……?」
意を決してグレイスから少し離れるとグレイスの戸惑った声。
それには答えず、何か言おうとするグレイスの手を取り掌に文字を綴る。
グレイスを見上げたリナリアの顔は、ほんのり朱に染まりグレイスは思わず息を飲む。
『ごめんなさい。グレイスと一緒に踊りたかったの』
たった一言、ゆっくりと震える指で紡いだ文字は上手く伝わっただろうか?
表情を変えないグレイスにリナリアの瞳が不安げに揺れる。
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