満たされぬ心

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「ねえ竜くん。妹さんの具合はどうだった?」 俺に話し掛けたのは響(ヒビキ)。会社の同僚で、よく一人暮らしの俺のアパートに押し掛けては、勝手に泊まっていく。スタイルの良い、一般的に美人の部類に入る女だ。 「まだ悪阻で苦しんでる。普通は2~3ヶ月で治まるらしいのにな」 妹は今妊娠9ヶ月。もう来月には出産予定だ。体調が悪いのも関係して、もう実家に帰って来ている。 「出産まで悪阻続く人いるらしいから」 弱々しい笑顔で言う妹の姿に、胸をかき乱された。 「ふ~ん、それもそうかもだけど、きっと妹さんのは心理的なモノもあるよね?」 「……何が言いたい」 俺が睨むと、響は綺麗な笑みを見せた。 「それは一番竜くんが分かってるでしょ?」 あぁそうだ。俺のせいだ。 お腹の子供が俺との子供かもしれないと、その事実が妹を苦しめているんだ。 「……分かってるっ!」 俺は唇を噛み締め、顔を片手で覆った。 分かってる。分かってる。 でももう時は戻らない。 やり直しなんて出来ない。 ……きっとやり直しても同じ事をするだろう。ただアイツが欲しかった。  
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