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「更に一つの懸念が御座います」
「どの様な懸念があると申すのじゃ」
「御館樣も師匠も口には出しませぬが、啄木鳥の策はあくまでも奇襲で御座います、戦上手の謙信殿が奇襲を見破る事も考えられます、その為にも本陣の人数を多目にした方が宜しいかと考えました」
「成る程、確かにわしも勘助もその事は考えたが、逆に見破られる事も考え八千の人数を充てる事にしたのじゃ」
「しかしながら、妻女山に着いた時に、上杉軍が居なければ我が軍は八千の兵力を無くしたと一緒で御座います」
「確かに危険な賭けではあるが、此度の謙信との一戦では今まで三回の決着を着ける一戦にするためにも、あえて危険な賭けに出たのじゃ」
「作戦の成功を祈ります」
その夜遅く、海津城では別動隊の為の炊き出しが行われた。
その様子を妻女山から眺めていた謙信は、腹心の直江実綱に
「けんな夜中に炊き出しの煙が出た事は、これ迄には無かった、武田が動くぞ、我等は妻女山を下り川中島に布陣する、音を立てずに進軍する様に伝えよ」
と命じた。
山本勘助の啄木鳥の策が破れた瞬間であった。
第四回川中島の決戦である。
妻女山に着いた武田の別動隊の前に、上杉軍の姿は無かった。
川中島に布陣している信玄は勘助と共に、霧の向こうの妻女山から聞こえてくるはずの喚声を耳を済まし聞いている。
すると、妻女山からではなく霧のすぐ向こうから馬のいななきや、鎧の擦れあう音が微かに聞こえてきた。
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