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「上様がの…その、条件を出されての」
勘助がそこまで言った時、お市が
「諸国見回役の組頭で御座いますか」
と言った。
勘助は驚き
「何故その事を知っておるのじゃ」
と目を丸くしてお市に尋ねた。
「上様より文を頂きました。隠居願いね条件として、そなたのご亭主に特別な役を引き受けてもらった。二~三年辛抱して欲しい。勘助を責めず余を責めよ。と書いてありました」
お市は答えた。
「上様がその様な文を」
勘助は勝頼に感謝した。
「上様にこの様に言われては仕方御座りませぬね」
お市が言った。
「済まぬなお市」
「上様の為にお役を全うして下さいませ」
「この身に代えてもな」
勘助はお市の手を取り頭を下げた。
翌日大広間に集まった家臣を前に勘助は
「わしは隠居致す。家督は嫡男の才蔵に勘助の名と共に譲り渡す」
と告げた。
それを聞いた一同はざわめいた。
家老の青山宗十郎が
「まだ隠居致すお歳では御座るまい」
と勘助に具申した。
「某もまだ若輩者で御座います」
才蔵も勘助に言った。
「皆の気持ちも分かるが、最早戦国の世も終わった。これからは武田幕府を盛り立てて参らねばならぬ。その為には若い力が必要なのだ!これは既に決めた事じゃ!青山、角田、田上その方等家老が三代目を盛り立てていってもらいたい」
勘助は言った。
青山、角田、田上の三人はその場で相談し、青山宗十郎が代表して発言した。
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