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「お上さん、どうじゃな才蔵をわしに預けぬか」
「この子は、おらの子じゃねえだ。両親が亡くなったから、おらの所で面倒みとるだけじゃ」
お上さんは、素っ気なく勘助に言い、才蔵を見た。
「才蔵、どうじゃ?」
勘助は、才蔵の肩に手を置き、しゃがみ込み才蔵と同じ目の高さで聞きたい。
「ここの働き手が減っちまうから無理だ」
才蔵がしょげた顔で言うのを見て
「お前の好きにするが良い」
お上さんが勘助と才蔵を見ながら言った。
「お上、良いのか?才蔵はどうじゃ?」
「叔母さん本当に良いのか?」
「ああ、好きにしなお前の父ちゃんも侍だったからね、お前が侍に成れば死んだ父ちゃんも母ちゃんも喜ぶだろうよ」
お上さんは言い、才蔵を抱き締め
「お侍樣、才蔵を頼みますよ」
と勘助に頼んだ。
「この山本勘助が立派な侍にきっと育て上げてみせる、安心せい」
勘助は自分の胸を叩いてみせた。
「お侍樣、今日はここに泊まって行きなされ、わしらも才蔵と最後の夜を過ごしたいからの」
「そうさせてもらおう、これで酒と肴でも買って来てもらおうかの釣りは良いぞ」
と言い、懐から財布を出すと中の小判をお上に渡した。
「こんな大金見たことねえだ、直ぐに買いに行ってくるだ。与作、そろそろ父ちゃん帰って来る頃だから、洗い桶を用意しておけや」
お上さんは与作にそう言うと、酒と肴を買いに出掛けた。
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