イドゥン

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淡い光を放つ大きな樹がそこにあった。枝には青々とした葉がついているが、その他には何もついていないので、何の樹なのかは分からない。 「どこなんだよ、ここ」 トオルがそうぼやくのも無理はなかった。辺りは黒というよりは藍色にちかい色をしていて、そこには大きな樹以外に何も見当たらなかった。 トオルは戸惑いながらも歩を進め、近づくにつれ、その樹の大きさに圧倒されていた。 「大きな、樹・・・・・・」 トオルは今自身に起こっていることに、思い当たる節があった。 それは元々、東洋の小さな国にあった、とある都市伝説だった。 トオルがそれを知ったのは、昔、自分の父親から聞かされたからだ。トオルの父親はその国の出身で、大学を卒業した年にヨーロッパの方に移住し、そこで出会ったトオルの母親と結婚した。トオルは父親の母国に行ったことはないが、トオルという名前は父親の母国の言葉だ。 都市伝説の内容はとてもどはないが不思議なものであった。いつの間にか大きな空間の中にいて、そこには大きな樹があり、その樹の下には知らない少年がいて、少年に何かを問いかけられる。その問いかけの詳細がどんなものだったかは分からず、実際に経験しても何も覚えてないらしい。その都市伝説はトオルの父親が高校生のときからあるらしい。 「・・・・・・ふん、ただの夢だろ・・・・・・」 トオルはそう言葉にするものの、心臓は激しく鼓動していた。 樹のすぐ側にくる。その樹は近くで見ると一段と大きく8階建てのビルくらいはあるようだった。 「だ、誰もいないじゃないか・・・・・・」 トオルは下を向き、ホッと息をつく。トオルの緊張の糸がゆっくりと解けていく。
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