イドゥン

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「また、誰か来たのか?」 唐突に声が聞こえた。トオルは突然のことに驚き、しりもちをついた。 「いってぇ・・・・・・」 「はは、愉快だよ、君」 「笑うんじゃねぇ!」 トオルは激昂しながら立ち上がる。 しかし、それはすぐに冷めてしまった。 前方には始め見たとき誰もいなかったが、今は樹の下に腰をおろしている少年がいて、外見からトオルと同年代くらいだと判断できた。白のTシャツにだぼついたズボン、黄色の肌で、黒く手入れのされていない髪で、眼にはどことなく輝きを感じさせた。 「あまりジロジロ見ないでほしい。あ、だけど君のその顔は面白い」 その言葉にトオルは苛立つが、とりあえずスルーした。 少年が話す言葉はトオルの父親の母国語だった。トオル自身は簡単な挨拶くらいしか話せないし、聞いても意味が分からないが、今ここで言っている意味が分かるのは、頭の中に意味が流れ込んできているようだったからだ。 「あんた、誰だよ」 「さぁ、誰だろう。名を聞く前に名を名乗るのが礼儀だと思うけど?」 少年はイタズラっぽく微笑する。 「・・・・・・トオルだよ」 「見た感じ、ハーフかな、その顔立ちは。半分はこっちの方の国の血かな」 眼を細め、少年はトオルの方を見て言った。 「それより、こっちが名乗ったんだから、そっちも名前言えよ」 「さぁ、名前なんてあるのかどうか。こちらの文化には無言の美学ってのがあるから、まぁ、言わないでおこうか」 「・・・・・・」 眉間にしん寄せたトオルの顔を見て、少年はニヤニヤしていた。 「ここでなにをしてる」 トオルは警戒心を込めて言った。ここに人がいるのはあまりにも不自然なことだ。周りにはまったく何もない。ここで生きていくことは不可能だ。 やはり、夢なのか。 トオルは思った。 ニヤニヤとした表情を変えずに少年は言う。 「栽培」 「栽培? 何を?」 すると、先程の笑みとは質の違う笑みを浮かべ、少年は答える。 「お前が望んだもの」 トオルは上を向き、樹の葉の間を見ていく。しかし、何か実っている様子もなく、花もない。 今は実る時期じゃないのか。 トオルはそう思いながら、再び少年の方を向く。 そして、トオルはふいに疑問を抱く。
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