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翠は真っ先に、10階へ向かった。芸術書が置いてあるコーナーの、写真集の本棚で立ち止まる。 そして、一冊の写真集を手に取ると開いた。 優也はこっそり後ろから覗き込む。 「風景?」 「そう。空の写真。この方の撮るアングルが本当に可愛いらしいの」 ふふ、と翠が笑う。 「生き生きしてるのよ。写真から命の息吹きが響いてくる」 「今日が発売日なんだね」 「そう。だから立ち読みしに来たの」 優也はちょっとびっくりして、 「買わないの?」 「買えないわ。本当は毎日でも見たいくらい好きだけど」 翠は落胆するように微笑むと、写真集に目を戻した。 優也は翠のすぐ近くで、同じ写真集を手に取るとパラパラとめくる。 時折顔を上げて翠を見ると、翠はとても幸せそうなキラキラした瞳で夢中になっているようだった。 優也の瞳から、自然と笑みがこぼれた。 しばらくして、翠は写真集を名残惜しそうに本棚へ戻すと、演技書のコーナーへと歩いた。 「買う本って演技書?」 「立ち読みよ。脚本や演出の本をね」 「君も勉強するんだ」 「もちろんよ。今年の文化祭のためにね」 翠は色々な本の背表紙を見たあと、一冊の本を手に取った。 「演出については、私はまだまだ素人だもの」 それから、途中から本を開いた。 「ブックマークしてある……」 「本屋に来るたびに、一章ずつ読んでいるの。 去年から勉強して、三冊読めたわ」 翠は笑った。 「あなたは演技書を読んだらどう? ウタ=ハーゲンはまだでしょ? そっちの本棚の右上から二段目、左から11冊目よ。 とってもオススメ。理論もさる事ながら、より実践的なの」 優也は言われた通りに本を手に取ると開いた。 「まだ新しいから図書室にはない本なの」 「僕も本屋に通おうかな」 「どうしたの急に」 「君を見習おうと思って。来るたびに一章ずつ読むんだ」 翠は何も言わずに微笑むと、演出の本を開いて読み始めた。 優也もそれに習う。 二人は、そんな事を繰り返し、結局暗くなるまで本屋で過ごした。
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