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「すっかり暗くなってる」
「これだけ長い間本屋で過ごせばね」
優也は翠を見て笑った。
「とても有意義な時間だった」
「……本当にそう思ってる?」
「うん。君が本屋に行く時は、また僕も一緒に行っていい?」
翠は返事をしなかった。黙ったまま、優也を見上げて本当に嬉しそうな顔で微笑んでみせた。
初めて見る、翠の本当の笑顔だった。
「あ……、お、送るよ」
翠の笑顔に、優也は動揺して声がうわずった。
「大丈夫。一人で帰れる」
「でも、もう暗いし危ないよ」
「いつもの事だもの。平気よ。」
優也は無意識に翠の手を握って引き寄せた。
「駄目だ。君は女の子だろ」
思わず口調が厳しくなった。翠はぽかんとした顔をした。
「送ってく」
もう一度、はっきりと言うと、翠は困ったように顔を伏せた。
「……手、離して」
「…………」
優也はぎゅっと強く手を握った。
すると、焦ったのは翠の方だった。
「分かったから…大人しく送ってもらうから……」
翠らしくなく、その声は小さくうわずっていた。
優也はふ、と笑ってそっと手を離した。
「帰ろ」
「……うん」
その後、二人はあまり言葉を交わさなかった。
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