0人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、翠がいつものようにシナリオを書いて、斜め左で優也がいつものように本を読む。
そこへ、一人の少女が割り込んできた。
「翠!!」
翠は驚いて、顔を上げると、満面の笑みで翠を覗き込む少女の姿があった。
黒髪は肩より少し短く、揃えて切ってある、
前髪をピンで右に分けている少女。
「妃……」
「シナリオはどんな感じ?進んでる?!」
弾んだ声。
翠は書いていたノート、それから鞄の中から2冊のノートを取り出して妃に渡した。
「何本か書いてるの。みんなが気に入ったのを文化祭で上演すればいいと思って」
「わぁ。さすが翠ね!愛好会部長として鼻が高いわ」
「喜んで貰えて嬉しい」
「今年も翠、また演出してくれる?」
「もちろん。私でいいなら」
妃は翠の手を取ってぎゅっと握った。
「今年も、ふんぞり返ってる演劇部の連中にパンチかましてやりましょ!
今年は大会で優勝するのっ!」
「う、うん」
翠はちら、と優也の顔を見る。
優也の目は険しく妃を見ていた。
「今年大会に出るのは、僕ら演劇部だ。
アマチュアの君らには相応しい舞台じゃない」
優也の言葉に、妃は初めて優也に気づいたようだった。
「あら、これは演劇部副部長の優也さん。
あなたの噂はかねがね……女王の忠犬だとか」
優也は翠をはっと見た。
翠は言ってないと言うように、首を振る。
「君ら愛好会は調子に乗ってる。去年はたまたま上手くいっただけだ。
大会をなめちゃ困るな」
妃の目と優也の目の間に火花が散った。
「相変わらず偉そうね。そういう所が気に食わないわ」
「僕も、君達のそういう生意気な所が好かないな」
妃はふん、と仁王立ちして優也を見下すようにした。
「いい?片林優也。あなたが翠に取り入ろうとしても無駄よ」
「取り入ろうとしてなんか……」
「翠は私達愛好会にしかシナリオを書かないわ。
演劇部に華音が居る限りね」
「妃!!」
翠は思わず立ち上がった。
優也と目が合うが、翠はさっと目をそらして鞄を肩にかける。
「シナリオで相談して書きたい所があるの。
愛好会の部室で話さない?」
妃はぱっと目を輝かせた。
「もちろん!翠ならいつでも大歓迎よ」
「……それじゃ」
翠はこちらをじっと見る優也の視線を振り切るように、妃と共に図書室を出て行った。
「演劇部に華音が居るから、シナリオを書かないって……
どういう事だよ」
優也は呆然としていた。
最初のコメントを投稿しよう!