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作戦は失敗だった。 優也は眉根にしわを寄せながら、階段を上がっていた。 借りた本をもて遊びながら、先ほどの少女を思い出す。 先崎翠。 1年の文化祭という一大イベントで、芝居愛好会が演じた芝居の台本を書いた少女。 おかげで演劇部の評価は散々で、一年に一度の演劇の大会には出られず、愛好会が代わって大会に出た。 そして、なんと3位という成績を残していた。 この北里学園では、演劇部と芝居愛好会の2つがある。 2つある理由のひとつが、北里学園が演劇に強い事が上げられる。 演劇部はプロ志向が集う部で、愛好会はアマチュアだが芝居が好きで演じたい人が集まる気楽な部だった。 演劇部には顧問として、劇団の主宰がついているが、 愛好会は数学の教師が顧問で、ほとんど顔を出さない。 あの少女は、シナリオを書くだけでなく演出と演技指導までしたという噂だった。 優也はため息をつきながら、自分の教室に入る。 「優也ー!どうだった!?今日こそ聞けた!?」 少女が優也の首に両手を絡みつけて、上目使いで優也の目を覗き込んだ。 優也は少女に微笑んで、少女のブロンドの長い髪を撫でた。 「結果は失敗。あの子、僕にはまるで興味がないみたいだ」 綺麗な顔をしている少女は、優也から手を引いた。 「そう。優也がわざわざ言いに行ったのに、断るなんて……」 少女は考え込むように腕を組んだ。 「華音、あの子は手強そうだよ。諦めよう」 「優也!」 華音は優也を一括した。それから優也の服の裾を掴む。 「私達はスターになれるのよ。中学の頃から私達……ずっと注目の的だった。 それなのに…思い出してみてよ。去年の文化祭を!」 「華音落ち着いて」 「あの翠って女は私達を侮辱したも同然よ! あんな素人ばかりの部に、シナリオを渡すなんて……! なんとしてでも、今年は翠のシナリオで大会に出るのよ」 優也はじっと華音を見ました。 「そりゃ、僕だって先崎の台本を演じたい。 でもどうやって?」 「仲良くなるのよ!あの女、きっと彼氏出来た事もないんじゃない? だから、あなたが翠と仲良くして、翠が自分からシナリオを書きたいって言い出すように仕向けるのよ」 「華音は、それでいいの?」 優也は、華音の巻き毛に指を絡ませて聞きました。 「嫌よ!……でも、私は今年は大会に出て、必ず優勝したいの。 この世界で生きていきたいなら、実績を残さなきゃ」 「華音」
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