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「よぉ、メガネ女」
下駄箱で靴を取り出した時、背後から低いドスの効いた声が聞こえた。
翠は全く気にとめず、そのまま靴を履き替える。
「無視すんなよ。相変わらずつれないな」
翠は鞄を肩にかけ直しながら振り返った。
「何か用?」
翠の前には大柄な体型の少年が立ちはだかるように立っている。
黒髪をツンツンさせて、目元は不機嫌にしわを寄せていた。
「お前が去年書いたシナリオのおかげで、演劇部の危機なんだよ」
翠はため息をついて、視線を外した。
「だから何よ。私には関係ないわ」
「んなわけねーだろ!お前、なんであんな良いシナリオを演劇部に渡さなかったんだ?」
「……いけすかないブロンド女が居るからよ。
これで満足した?」
「華音の事か。お前なんでそんなにあいつが嫌いなんだよ」
翠は黙ったまま、歩き出す。
「……おい!」
「………歓太郎には、分からないよ」
翠はそう一人ごちてから、走り出した。
「メガネお……翠」
歓太郎は、表情を歪ませたまま、翠の背中から目を離さなかった。
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