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翠の顔から笑顔が消える。
「それお世辞?」
「まさか。君が僕ら演劇部のためにシナリオを書くつもりがない事は分かってる。
でも、去年の愛好会の舞台を見て鳥肌が立った。
本当に素晴らしい内容だったよ。誰かの舞台にあんなに感動したのは初めてだった。
僕も、君のシナリオを演じたかったよ」
「愛好会に入ったら夢が叶うわね」
優也は苦笑いした。
「君って、変わってるって言われない?」
「異端者扱いは慣れてるの」
「他にもシナリオ書いてるの?」
「何本かね。でも駄目。あなたには読ませないわ」
翠は楽しそうに笑った。
「手強いなぁ……」
「とにかく、シナリオ書きなら他にもいっぱい居るでしょ。
文芸部あたれば、大歓迎される事間違いなしよ」
優也はため息をついた。
「でも君は今年も愛好会のためにシナリオを書いてる。
そしたら今年も演劇部の敗北は免れない。
今部内でもちょっともめてるんだ」
「あら大変ね」
翠がくすくすと笑ってみせた。
「ウタ=バーゲンの演技書を読んで頑張って」
翠はノートと鉛筆をしまうと席を立った。
「え。どこに行くの?」
「あなたが居て集中出来ないから今日は帰るわ」
「OK。黙るよ。今日はもう君に一言も話しかけない。
だから座って。いつものように」
翠は優也の表情を伺うように見てから、ゆっくりと席に座った。
「君の邪魔はしないよ」
優也はそうつぶやいて、本を広げ直すと読み始めた。
翠は自然と笑みが出るのを感じていた。
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