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『旦那の傷は見た目より悪いねぇ…命筋に繋がってる太い血の道に、傷がついちまったってっ話じゃないか。相変わらず俗世は不安な状態ですしね…旦那の完治を早めたいのはわかりますよぅ』
こんな山奥の湯治宿の女将の割には世間に通じすぎている…
『アタシもね最初センセに頼まれた時ぁ、少しくらいなら弾みにもなるって思ったんだけどねぇ…あんなに入れ込んでちゃあいけないねぇ…体に障る』
そう私は女将に龍馬と零さんが通じ合うのを、出来るだけ邪魔して欲しいと頼んだのだ
アイツの事だ逆の弾みがついて、女将の言うとおり療養にならん
『ましてや零さんとアイツは夫婦同然だが…正式な婚姻はまだでな。彼女はまだまだ子ども…』
彼女の養女先を、信頼のできる筋に頼んでいるがなかなか決まらない…しかも…零さんはまだ幼く
もし我々に何かあった場合、傷物にして里に帰すなどは是非とも避けたい
『ところがドッコイですよぅセンセ。あの娘っ子は世間は知らぬが馬鹿じゃあない。旦那との距離を計ってるのは、あの娘でさぁ。アタシの助け舟はいらないみたいでねぇ…こんな物まで頂いてるのに申し訳ないんですよぅ』
女将は煙草入った包みをヒラヒラさせた
『零さんが?距離を?』
『あの娘は健気ですよぅ
心底惚れてる相手になら、あんな生娘なら普通はほだされますよぅ。それをねぇ…旦那の体大事と上手くかわしてるんでさ、サラシに少しでも血が付いてたら、すすり泣きながら洗濯してますよぅ。ほら、あの井戸端でねぇ…』
女将は何気なく井戸を見やる
私もそれに続く
『その背中の可愛いこと、いじましいことったら…だから…霧島にはまだ到着していない事になってるんでさぁ』
私はぎょっとして女将を振り返る
『センセ、そんな怖い目しないでおくれよぅ。ただ様子は上げる事になってまさぁ』
私は軽く刀の柄に手をやる
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