33人が本棚に入れています
本棚に追加
『もぅっセンセはそこらの土佐モンと同じかい?
此処までさらける訳を考えてご覧よっこのスットコドッコイッ!!』
『スットコ…!』
『アタシみたいな間者なんざ、たいした駒じゃあ無いんですよ。
上は日和見しながら監視してるだけさぁ…只ねぇ…世情が変われば話は別だ。薩摩は戦争がしたいからねぇ』
『…』
『万が一つに備えただけさ』
『何故?義理は無いはず』
『あの娘っ子が心底気に入ったからさ。これじゃあ足りないかえ?』
『…』
『ハッ 好きにおしよっ
あたしゃあの娘に泣かれたくないだけさっ泣かすなら旦那だって許さないよっ!
さぁそろそろ二人が帰って来るはずさ。昼の支度をするから邪魔しないどくれっ』
女将は台所の方へきびすを返し入って行く
私は柄から手をはずし後に続いた
『…それは許さなくていい』
目を丸くして今度は女将が振り返る
『坂本の旦那をかい?』
『あぁ…その時は私を呼べ。刀の錆にしてくれる』
『…!っあっは…あははははっ武市センセェも変わり者だねぇ…
…あぁ…そうかぃ…』
『なんだ?』
『あたしと同じ穴の狢って奴だ。そりゃあ…切ないねぇ』
『なっ…私は何もっ』
『黙っててあげるよぅ
ほら、二人がお帰りだよ
その情けない焦り顔何とかおしよぅ』
すっかり元に戻って、二人を出迎えに外に出る女将
私は掌で頬をピシャリと叩き、深呼吸をする…今はあの女狐に預けてみよう。
いざとなればどうにでもなる…うん
『今度は…ようじ屋の紅と白粉を用意しなければならないな…』
何故なら女将はこの上なく楽しい材料を渡してくれたのだ
私はこのくすぐったい気分を、あの龍馬の半紙のせいにした
第二章【終】
最初のコメントを投稿しよう!