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寺田屋襲撃から命からがら薩摩藩邸に避難した一行は、西郷と大久保の手引きにより、海路にて鹿児島を目指していた
『…よしっ出来たぜよ』
龍馬は船室で墨を撒き散らしながら、書き物をしていた
両の手に受けた傷は思いの外酷く、こと左手に関しては出血すら未だ止まらない状態だった
それを利用し、右手の親指で血判を捺す
『零はどこかのぅ』
未来からの奇跡の娘、零の姿を求め甲板にでる
海風が心地よく、ほどよく雲のある青空が広がる
龍馬はこの空を、一生忘れないだろうな…と感じた
『零』
『龍馬さん!寝てなきゃ駄目ですよ』
『龍馬さん!寝てなきゃ駄目ッス』
『…お前ら双子か?』
呆れ顔の以蔵が突っ込む
『いいき、いいき。みんな居るなら話が早いぜよ』
『何だ龍馬、その半紙は?…オイ…左手が凄い事になってるが?』
武市は包帯がほどけ、血の滲んだ左手を指差す
『龍馬さんっ船室に行きましょう!直ぐに手当てします』
零は心配で涙目だ
『武市、以蔵、中岡。おまんら立会人じゃ』
龍馬はお構いなしに進める
『龍馬さん!』
零の呼び声に合わせ龍馬は真正面に向き合う
『大切な事なんじゃ』
龍馬は優しく…しかし零の瞳をしっかりと捕らえる
『今、血が流れるのも、生きているからこそじゃ…おまんが助けた大事な命。粗末にはせんき大丈夫じゃよ』
零の頭をぽんぽんと撫でる
『今の気持ちを逃したくないきの…ここに立ってくれんか?』
龍馬は零を船首に背を向かせ立たせ、己は少し引いて向き合う
『おいっ何なんだこれは?』
『ちくと付き合え』
『…』
龍馬の飄々とした行いに反し、にこやかではあるが、真剣な眼差しを読み取った四人は黙って従う
手にした半紙を広げ、まるで子どもが作文を読むかの様にはじめた
『零…これがわしのまっことな気持ちじゃ』
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