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「あの、とにかく、公園へ行きましょ?ね?」
彼女はやっと小さい声でそう言って、隙間に入って行った。
「…うん」
僕も身体を捩じ込んでみる。
…ちょっとキツいが、いけそうだった。
確かに小さい頃、
みんなでここの隙間を通って、公園の裏にある森のような場所に段ボールで秘密基地を作った思い出がある。
どこへ遊びに行くのにもここを通っていたような気がするな。
…あの中に、この子も居たのかな?
公園に着くと、彼女は森の中へ入って行く。
雪と草むらの中をズンズン進む彼女。
僕は彼女を追うのに必死だった。
「着いた!」
彼女が本当に嬉しそうな声をあげるから、僕は息切れして膝に両手をついてハァハァ言っている自分が恥ずかしくなった。
…歳取ったな、自分。ってまだ高校生なんだけどね。
ほんと、帰宅部はいけないな。
僕は顔を上げた。
「……ぁ」
声にならない声が出た。
「秘密基地」
そう、僕らの秘密基地だ。
「懐かしい?」
彼女が言った。
僕はなんだか無性に嬉しくなった。
「んん、懐かしいよ。あの、八百屋の息子のみっちゃんがさ、みかんの段ボールやらリンゴの段ボールやらを持ってきて、電気屋の息子の高橋くんが電池で点くスタンドライトあるから持ってくるよ!って。で、サラリーマンの息子の僕がお菓子とジュースを持ってきてさ。みんなで秘密の会議をしたりして。夏休みに、お父さんに怒られた時に面白い言葉を言ってみるっていう作戦を立てた時があったんだけど、それが"ヒポポタマス!"っていう言葉で。本当にやったみっちゃんがたんこぶ作ってて」
僕は嬉しくなると、やけに饒舌になる。
いつもはこんなに喋らない。
雨風でボロボロになっているけど、まだ原型を留めていた。
「…まだ在ったんだ」
ちょうど上には大きな枝があり、だいぶ雨や雪を凌げているようだった。
「…あ、でも、場所がちょっと違うな」
…そうだ。
もっと日が当たっている場所に作ったはずなんだけど。
「あたしが……動かしたの」
いとおしそうに秘密基地を眺めながら、彼女が言った。
「みんなとの思い出……無くしたくないから」
そう言うと、彼女は僕に笑いかけた。
「あの、もしかしてさ……あの時、居たのかな?」
僕は言った。
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