奴隷

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すべてはあの時。 まちがったのは、きっとあたし。 「おい、メガネザル。次の授業のノートとっておけよ」 あたしはそう声をかけられて、びくぅっと体を揺らす。 ま、またこの人は…。 もういい加減、嫌なんだってばっ。 メガネザルっていうのもひどいっ! あたしにはちゃんと、和沙っていう名前があるのに。 「あっ、安積くんっ。ノートくらい自分でとってっ。あと、あたしはメガネザルじゃないっ」 はっきりきっぱり、今日は言えたと思う。 がんばったあたし。 でも。 そんなあたしの言葉なんて、この人には何一つ響くこともなくて。 安積くんは、あたしの肩を少し押して、あたしを背後の教室の壁に押しつけて。 その整った顔を、あたしの目の前に近づけてくる。 不覚にも、少しときめいて、赤くなってしまうあたしの頬。 だって性格はあれだけど、その顔は…ずるい。 甘く整った顔。 整えられた眉毛。 すっきりとした鼻筋。 その顔にときめくのは、あたしだけじゃないはず。 その指先があたしの頬、眼鏡の縁にふれて。 あたしは目を強く閉じて、安積くんから顔を逸らす。 「なに期待してんの?こんな分厚い瓶底眼鏡かけて、メガネザルのくせに」 グサッ。 あたしの心を安積くんの言葉は見事に貫いてくれる。 メガネザルじゃ…ないもん…。ううっ。 「おまえは俺の奴隷でいればいい。それとも、あの秘密、誰かに話して欲しいのか?おまえが…」 「やりますっ。ノート、とらせてもらいますっ」 あたしが安積くんの言葉を止めるように、懸命に言うと、安積くんはにっこりと笑ってくる。 「最初からそう言えばいいのに。卒業までこれからも仲良くしていこうな」 安積くんはあたしにそう笑顔で言ったあと、かけられた声に返事をして。 あたしに背を向けて派手な女の子たちと教室を出ていく。 うぅっ。 もう…高校3年なのに…。 卒業までまだもう少しある…。 あたしと安積くん、1年の時から同じクラスで、 あたしは1年の時から安積くんにこういう扱いを受け続けてきた。 あたしの秘密。 安積くんが知っている、あたしの誰にも知られたくない秘密。
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