ウソとホンモノ

24/32
前へ
/32ページ
次へ
「散らかってて…、適当に座って?あ、コーヒーでいいかな。」 明日香は俺と目を会わせてくれないまま、いそいそと部屋に入り、キッチンにたった。 靴を脱ぎながら、部屋に点在する段ボールを見て、本当に引っ越すんだと、胸が締め付けられるような気がした。 「…お邪魔、します。」 「…うん。」 ちらっと、こっちを身やりちょっとだけ笑う明日香。 今すぐ抱き締めたい衝動に刈られて、俺は落ち着こうとそっと息を吐き出した。 ほとんど荷物の片付けられた部屋のすみに座り、ぼんやりと作業をする明日香の後ろ姿を見つめる。 会えた… 部屋にいれてもらえたのは、想定外だったが…。 何から話せばいいんだろう。 俺は明日香から視線をはずし、ポケットにいれたままの合鍵をそっと握った。 「はい、ブラックでよかったよね?」 不意に目の前にカップが差し出されて、俺はハッと我にかえった。 「…ごめん、ありがと。」 俺はカップを受け取り、一口コーヒーを啜った。 「…………」 「…………」 気まずい沈黙が続く。 ホンの数秒のことだろうが俺にはなん十分にも何時間にも感じた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加