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「…っ、あすか?」
俺は明日香の顔を見て、息を呑んだ。
「…ごめ、でも…とまら、ない…」
嗚咽をあげるわけでもなく、明日香の瞳からはらはらと涙がこぼれている。
「…わかった、あんなに悲しい顔してた理由。」
おずおずと近づいてきた明日香は俺の手を遠慮がちに握った。
「…恋人みたいだって、言った日の尚ちゃん…悲しい顔してた…。でも、私も悲しかった。私のこと見てないくせにって思って…。」
捨て猫みたいに、恐る恐る。
明日香は俺の胸に額を押し当てた。
俺は明日香の手を握り返して小さく、ごめんとつぶやく。
「…最初は確かに似てたから…、だからそばにおいておきたかった。ニセモノでもいいから、そばにいてほしかった。」
久しぶりに感じる明日香の香り。
鼓動がうるさく響くのがわかる。
「でも、明日香がいなくなって…気がついた。」
手が震える。
たぶん、明日香にも聞こえてるはずだった。
俺の早鐘を打つ鼓動が。
目の前の現実。
そこにいる。
ホンモノの明日香が。
「…明日香が、好きになった。」
ちょっと、赤らんで、涙にぬれた頬をそっとなでてやり顔を上げさせると、明日香の顔がくしゃっと涙にゆがんだ。
「嫉妬した。俺以外のやつが明日香に触ってるんだっておもうと気が狂いそうでどうにかなりそうだった。」
「…尚ちゃ…、」
「ウソじゃない、ホンモノの気持ちに気づいた。」
震える唇に指を這わせる。
桜色の柔らかな唇。
「…愛してる。だから、どっかいくなんていうなよ。俺のそばにいろ。…いや、」
俺は深呼吸して、まっすぐ明日香の目を覗き込んだ。
ポケットから合鍵を取り出して、明日香の手に握らせる。
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