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初めは、大嫌いだった。
教師のくせに
人を見下したようなその瞳も。
私を子供だと
からかって遊ぶところも。
タバコばかり吸ってるところも。
嫌いだった。
何もかも。
―――なのに。
いつからだろう?
"大嫌い"が"大好き"に
変わったのは。
自分でもよく分からない。
だけど"大好き"に
なっちゃったんだ。
先生のことを。
「川瀬、お前進路
ど-すんの?大学行くのか?」
先生が私に聞く。
狭い進路指導室の中に二人きり。
部屋中に充満するタバコの匂い。
まるで先生の香りに
包まれてるみたいだと、
ひそかに思った。
「……えっと…」
先生の質問に口ごもる。
できればずっと
この高校にいたいです。
先生と、離れたくないです。
なんて。
口が裂けても言えない。
先生。
私は。
先生が中庭でタバコを
吸ってるのを注意したり、
いつもだらしないネクタイを
キレイに結んであげたり、
他の先生の悪口を笑って
言い合ったり、
意味もなく
先生にドキドキしたり。
そんな日々を
これからも過ごして
いきたいんです。
そう思うことは
いけないことなんですか?
教えてください、先生。
私が先生を好きな理由も。
今、すごく泣きたい理由も。
「…そうだな。
進路決まってねぇんなら…」
「…、」
突然だった。
驚くヒマなんかなかった。
手から伝わる温度が、
やけにリアルで。
先生の瞳が、
あまりにも真剣で。
思わず息を呑んだ。
「進路決まってねぇんなら…
…俺んとこ、嫁くるか?」
ぎゅっ
と
握られた手が
強さを増す。
先生、それは。
その言葉は。
…反則です。
わかってる。
ちゃんとわかってるよ。
先生が冗談でそんなこと
言う人じゃないってこと。
…だから。
だからね。
素直に、
なってみてもいいですか?
「…先生、好きです―――。」
その言葉に重なるように。
唇に感じた先生の熱と。
タバコの匂い。
今まで感じたことのない
幸せとともに。
私はゆっくりと
目を閉じた…―――――。
【END】
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