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『親なんかしねばいいのに…』
小石を思い切り蹴る
制服のスカートが、
ひらりと揺れた。
学校帰りの田舎道、
いつもと違う道を通る
家に帰る気は無かった
(勉強しろ勉強しろうるさいのよ)
(その上お手伝いしろ?スカートは曲げちゃダメ?お父さんのお叱りが効かなかったらお母さんの泣き落とし?)
いい加減にしてよ!
あたしだって心はあるんだよ
認めてよ!
小さな事なのに
ズビズビ鼻水を
すすりながら泣いた
家に帰りたくなかった
けど、いくあても無かった。
(どうしよう…)
友達の家は全員アウト
行くだけで狭い田舎、
すぐにお父さんがくる
野宿なんて無理!
お金は持ってない
(…どうしよう)
『おいそこのガキ、邪魔だ』
振り返ると、
背の高い男が立っていた
イーゼルと、絵の具。
『…ガキじゃないです』
『ガキだよ、小さな事に囚われて脳ミソ回転しないうちはお子さまだよ。』
『…………っ!?』
『書くのに邪魔だどけ』
驚きに目を丸くしている私を特に気にもせず、男は腰かけイーゼルに向かう
『……どかない』
男が、顔を上げた
まっすぐな視線が
私を初めて貫いた
『私を書いてよ、私を認めてよ』
どのくらいだったのか
男はしばらく、じっと私を見つめ黙っていた
かと思うといきなり、ガシャガシャと絵の具をあさり、スタスタと近づいてきた
『なに…?』
『やる。ぼったくり女め』
ねだったりしてない!
渡されたのは、黒の絵の具
『白はすぐに染まる。社会にでたら周りに混ざってぐちゃぐちゃのよくわからない色になる。
だからてめえみたいなやつは、悪い感情も嫌な感情も乗り越えろ。
お前の色は黒だ。
わがままで普通でしゃばりな代わり、誰にも染められない』
『お前のことは、お前しか書けない。認めてよ?ふざけんな、お前しか認められないんだよ。』
はっ、としたら男もイーゼルも全て無かった
夢でも見たのだろうか
キツネに化かされた気分のまま家に帰ると、
お父さんに怒鳴られた
お母さんに泣かれた
お父さんはちょっと泣いていた
お母さんは抱きしめてくれた
ポケットの中の黒の絵の具を掴みながら、少しだけ思った
あの男のキャンパスには、なにが書かれていたんだろう、と
でもそれを見なくても、私は明日、
家にまっすぐに帰れる気がした
この絵の具で、もう少し大人になったら私を書いてみようか
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