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圭介。
彼を知る人に、彼はどんな人かと聞けば、10人中10人がまず「背が高い」と答えるだろう。
身長184センチ。
幼稚園も小学校も身長順で並ぶと一番後ろだった。
圭介のお母さんによれば、赤ちゃんのときから大きな赤ちゃんだったらしい。
体は細くて、猫背気味。顔は決してハンサムではない。色が白く、目がはれぼったくて細い。
三度の飯よりテレビゲームが好き。
圭介は、人見知りな私が唯一普通に話せる男子だけど。
だからといって、友達かというとそれも違う気がする。
友達なのは、私の母親と圭介の母親だ。
「ただいま」
キッチンで夕食の支度をしていた母親は、いつものように「おかえり」と言った。
部屋には行かず、そのまま椅子に腰を下ろして聞いてみた。
「ねえ、圭介バスケ部入ったと?」
「そうそう。おばちゃん喜んどったよ」
母は、ゴボウをささがきにしながら話してくれた。今夜は、かしわご飯らしい。
うちの中学はとくにスポーツに熱心ではなく、バスケ部も弱小だった。
しかし、今年に限ってまずますいい選手がそろっており、区の大会くらいならいいところまでいけそうなのだという。しかし、部員は背が低く細やかなパスワークを得意とするタイプの選手ばかりで、背の高い選手がどうしても欲しかったらしい。
そこで、目をつけられたのが圭介である。
なるほど、たしかにあれほどの身長で、かつどこの部活にも所属していないのは、圭介くらいだろう。
圭介は最初は渋っていたが、熱心な勧誘を断れず、なんとなく入部してしまったらしい。
体はでかいのに気が弱い「弱虫圭介」らしい。
「圭介くんすごいとよ。朝錬のある日は、7時に家を出るっちゃけん。おばちゃん、朝ごはん食べさせるの大変やけど、嬉しいって言いよった」
「続くわけないやん。でかいだけで、運動神経ないのに」
「わからんよ。練習すればうまくなるかもしれんやん。あんたもなんかしんしゃい」
「やだ」
母の言葉を一言で切り捨てると、カバンを取り上げて自分の部屋に引き上げることにした。
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