爪楊枝

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爪楊枝

『ぱっぱ~。ぴろ~ぴろぴろ~。』大きな交差点を、アタシはあるっていた。音の鳴る信号機の音がハッキリと聞こえてきたので、アタシは 思わず空を見るように上を見た。慣れない場所にきたせいか、場違いでいごこちがわるい。きりっとしたスーツを、男も女も着こなし、早足で歩く。ここには、アタシの街のように、鮮やかな色がない。アタシは、雑に着こなしたワインカラーのワンピースに、あいつからもらった、少し大きめの赤いヒールを履いてビジネスマン達の中を同じように歩った。たまに、場に似つかないアタシをちら見するやつはいたけど、それがなんだか、楽しくなってきた。同類達が群がる中に、似つかわしくない人間が入るのも、何だか逆に、自由をみせびらかしているようで、気持ちがいい。ここは、ビルしかない街。右を向いても左を向いても、地平線なんて見えない。ビルの間を行き来するアタシ達は、空から見れば、爪楊枝のようだ。『あっ!』ヒールが欠けた。ここからは、アタシらしく裸足でいいや。か~えろっ。
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