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『儂も当時は魔物が絡んでると思って、少々腕に覚えがある者を調査に向かわせた。…しかしな、帰ってきたのは調査報告書などではなく、調査に向かわせた部下の死という結果だけじゃった。…調査に向かわせた数日後、付近を流れる川の下流で一人の死体が発見された。右腕をごっそり持って行かれ、顔の右半分はまるで毒によって溶けたように爛れていたらしい』
「それで、お前はどうしたんだ?」
『儂はただ報告を待った。向かわせたのは儂も一目置いておった部下じゃ。躍起になって人を送ったところで良い報告が来るはずもなし。儂はいつもの業務をこなしつつ、政府が送った調査隊の報告を待ったんじゃ』
「政府まで動き出したのか…。」
『あぁ。日に日に人が行方不明になる地域が拡大していってな…。今でも思い出す。報告の度に、地図が黒く塗りつぶされていくのじゃ。「今日はここで連絡が途絶えた…」「今日もここから連絡が…」とな。次第にその範囲は拡大して行き、とうとう大国も無視できない程の騒ぎになったんじゃ』
「…」
『そして、待ちに待った政府の調査報告が儂のところに届いた。…いや、儂だけじゃない。付近のギルド全てに通達が来たのじゃ。有名なところから無名のギルドまで…』
「ただ事じゃねぇな。」
『政府の発表は、新種の魔物…という事じゃった。まぁ、そこまでは儂も予想してはいた。だが肝心なのは、その魔物がどういった魔物なのかじゃ。なにか毒のようなものでも噴出しておるのか…とかな』
「それで、その新種の名前ってのは?」
『アブソーバー。こちらの古代語で、深淵という意味じゃ。…その時まっさきに思い浮かんだのは、黒く塗られていく地図。…確かに、まるで地獄が広がっていくようじゃった』
「なかなか的を射てるな。」
『その時ばかりは、苦笑しか溢れんかったが…』
ソルヴィも小さく笑っているらしい。
『政府の要求は至極単純じゃった。早急に、そのアブソーバーを退治せよ。……そんな伝達を周辺のギルド全てに発したのじゃ。勿論儂の所からも人員を向かわせた。いつもはお互い顔を見れば戦うことだけしか能がない部下たちも、一端に連合軍とか立ち上げてアブソーバーに挑んでいったんじゃ。……しかし、結果は失敗の連続。どのギルドも、いたずらに人員を減らしているようなものじゃった』
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