狂い始めた歯車

30/30
17273人が本棚に入れています
本棚に追加
/856ページ
「待ちなさい!!」 しかし、そんな不審者の後ろには、黒いゲートのようなものが現れていた。 グレイヴも、こちらの世界に来るときに通った時空トンネル。 逃亡を図っている不審者に対して、グレイヴは声と共に氷解を飛ばす。 ガキンッ!! しかし、あの時のように鎖で絡め取られると、粉々に砕け散った。 「…」 男は左腕を庇うように歩き、時空トンネルの前まで行くと、数秒蓮とグレイヴを睨んだ後、トンネルの中へと姿を消した。 「チィ…。何も情報を聞き出すことが…。」 グレイヴは歯がゆそうに眉間にシワを寄せていた。 だが、蓮が吐いた溜息に、視線をそちらに向かわせた。 「これから、どうするおつもりですか?」 「…」 グレイヴの問いに、蓮は視線を伏せる。 そして、先程よりも抑揚がなくなった声で、喋り始めた。 「どの道、選択肢は有ってないようなものじゃ。…儂がこの体で術を行使してしまった今、この体を抜け出すことが出来なくなってしまったしの…。」 「抜け出す?…じゃあ、アナタがその子の体から出る方法はあるんですね?」 「正確には、あった…じゃ。…お主が不甲斐ないばかりに、儂がこの体で戦ってしまってその方法すら使えなくなったのじゃ。」 「う゛…。」 "不甲斐ない"を強調する蓮に、グレイヴは声を漏らした。 蓮は頬を掻くと、「しょうがないの」と力なく零して、グレイヴを見上げる。 「儂はしばし、この体の主と話してくる。…それに、ちと騒ぎ過ぎた。誰かがここに来る前に、この体を人目のつかん所に移動してくれ。」 「え?」 そう言った途端、蓮は横に倒れた。 慌てて抱き起こすグレイヴだが、静かに息をしていることに気づいて、ひとまず安堵する。 しかし… (話してくる…とは、一体…) グレイヴは考えたが、とりあえず蓮をおぶって場所を移動し始めた。
/856ページ

最初のコメントを投稿しよう!