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それが、どんなに残酷なことかと思う間もなく、暫し穏やかな時間が流れていった。
――あの時も今日のようにたくさんの葉が……
春江の目に映っているのは、殺風景の木の窓枠や輪になったロープではなく、鳥のさえずる湖畔だった。
そこは庄次郎と出会った場所……そして生きる目的を見いだした場所だった。
春江は、庄次郎との思い出にふけることで、自殺しようとしている現実を一旦忘れようとした。
「春江さん、あなたとこの湖に来たかった。ここにいると、世の中の醜い争いが嘘のよう。私はこの湖のように常に穏やかで、静かで、温かく……そうありたいんです」
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