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「…ねぇ!? どうしてよ!!!」
人違いじゃという言葉を飲み込んでしまう程の剣幕で彼女は追求し続けた。
あきらは公園の段差につまずき仰向けに倒れる。彼のブレザーを掴んでいた少女もバランスを崩し彼に覆い被さるように倒れたが彼女は止まらなかった。
「どうして…どんなに心配したかどうして…」
彼の胸の辺りに置かれた握りこぶしを握っている彼女両手が小刻みに震える。それと同時に大粒の涙が彼の顔へと落ちてきた。
「どうしてなにも言わずにあたしを置いて行っちゃったのよ…!」
月明かりを逆光に、彼女の顔を見た。逆光のためよく見えなかったが彼女がとても悲しい顔をしている事だけが理解できたのだが、
「あぐぐっ! …頭が!」
その瞬間強烈な頭痛が襲い、そこで彼は意識を失ったのだった。
朝起きてみるといつも通り部屋のベッドで寝ていたし、頭に痛みなど微塵も無かったため彼は全て夢だったと思っていたのだがその少女が桜田学園の制服を着て今、交差点の向こう側にいるのだ。
暗かったため、あまり顔は見えなかったのだがあきらは何故かそう確信していた。
「どうかしたんです…」
横にいたイヅキは言葉を途中で止める。彼も少女の姿が目に入ったようだ。
「まさか…これは予想外ですね…。対策を練らねば」
イヅキは小さく呟いたが、あきらの耳には届かなかった。
「…は!? 信号変わっちまった」
目の前の交差点の歩行者信号はすでに赤に変わってしまい少女は坂の上に姿を消した。
「おい…イヅキ」
信号変わっちまったじゃねぇか。そう言おうとしてあきらは隣を見たが、そこには年老いた老婆がキョトンとした表情で立っているだけだった。
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