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「ルシアこっちなのだ!」
「…うんわかっているよリムル」
行きたくない。見たくない。
わかってるんだ。そこには最後に見た光景と打って変わって残酷な景色が広がっているって事が。
見たくない…いや認めたくないんだ。
みんながもういないって事が。
向き合いたくないんだ。そんな現実とは。
「…ルシア」
手を引いていた少女が悲しそうな顔で振り返る。
「わかってる。ごめん」
二人は常人なら息を切らしてしまうような高台にある丘を登った。
息は切れない。でも体が震える。
「大丈夫なのだ」
二つ年上の彼女が優しく微笑み、ゆっくりと手を握る。
「…大丈夫だよ」
「…何にもないね」
思わず漏れた言葉。外の世界と隔てていた壁は無残に崩れ、家屋は全て崩壊している。
空を見上げた。
空石が空を漂い、青空が果てしなく広がっている。
「…ねぇ? 空や遠くに見える景色は何にも変わんないね。《あの日》の前と変わんないのに何もかもが変わっちゃったよ……どう…し…」
語尾が震え続く言葉が出てこない。
「ルシアはいつもここにいたな…。姉さんや、誰かがここに迎えに来るまで」
静かに少年は頷く。家族一族のみんなを失った今、迎えなど誰も来てくれるはずもない。
「この世で変わらないものなどないって誰かが言ってたけど私はそうじゃないと思うのだ」
「人の想いは変わらない。私たちが存在していることも、過去の過ちも。だからこそ私たちは前へ進まねばいけないのだ」
リムルは再び優しく微笑んでくれた。
「…マリカ達には別れを告げないでよかったのか?」
「…うん。なんか顔合わせるの辛くて。でもすぐ戻るつもりだし」
「…そうだな」
再び遠くを見つめる。リムルの言った通り《あの人》は生きているのだろうか?
「ルシア!! 危ない!!」
突き飛ばされた衝撃に続き、視界に入ったのは飛び散る大量の血。
「リムル!!!」
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