第一章 始まりの鐘

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「チェンジで」 「いえ、そんなのありませんよ」 あきらの挨拶に対する返事に、イヅキは苦笑いを浮かべた。 「いつからここに…?」 いつでも逃げ出せるように腰を低く保ちながらイヅキに聞いた。 「昨晩からです」 「じゃあそういうことで」 素早く走りだしたあきらの腕を彼は掴んだ。 「冗談ですよ」 爽やかで、尚且つ胡散臭さを感じさせる笑みを浮かべる。 「冗談はマジでやめろ」 あきらは気持ち悪そうに胸を押さえた。 「すみません」 イヅキは左右の手の平を空に向けて、困った表情を作ってみせる。 「どうしてくれんだよ。お前のせいで完璧遅刻じゃんか!」 あきらはわざとらしく袖を捲って腕時計を見せた。 「もともと完璧に遅刻だと思いますけど」 「ぐぐ…」 「それより、一緒に行きませんか?」 イヅキが、学校の方角を指差した。 「俺、反対方向だから」 手のひらを返して、彼が指さした反対方向に踏みだしたのだが、またもやイヅキに腕を掴まれた。 「地球一周でもする気ですか?」 「お前と行くくらいなら一周した方がマシじゃ~!」 ふう。と彼はため息ついた。 「杏さんに怒られ」 「行こうかイヅキ君」 180度回転して最短距離で学校を目指す。イヅキと一緒なのが彼はすごく嫌だったが、サボると杏にひどい目にあわせられるためだ。 「見てください。今日は日本晴れですよ。気持ちいいですね」 爽やかな笑顔を見せてイヅキが笑う。あきらは空を見上げた。 どこまでも続く青空が広がっている。果てしなく。だが、彼には少し悲しい感情が生まれた。その理由は全く心当たり無かったが…。 まだ五月の午前中にも関わらず、灼熱の太陽がじりじりと緑色のブレザーを脱がせようと焦がした。 「確かに…でも不思議だよな」 「何がです?」 「こんなに気持ちいい朝なのに、お前が隣にいるだけでこんなにも気持ち悪くなれるんだ」 「それは、愛の告白への下りですか!?」 「いっぺん頭かち割っていいか?」 一体どういう思考回路をしているのか見てみたい。 「冗談ですよ」 再び胡散臭い笑顔をあきらへと向けた。
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