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「チェンジで」
「いえ、そんなのありませんよ」
あきらの挨拶に対する返事に、イヅキは苦笑いを浮かべた。
「いつからここに…?」
いつでも逃げ出せるように腰を低く保ちながらイヅキに聞いた。
「昨晩からです」
「じゃあそういうことで」
素早く走りだしたあきらの腕を彼は掴んだ。
「冗談ですよ」
爽やかで、尚且つ胡散臭さを感じさせる笑みを浮かべる。
「冗談はマジでやめろ」
あきらは気持ち悪そうに胸を押さえた。
「すみません」
イヅキは左右の手の平を空に向けて、困った表情を作ってみせる。
「どうしてくれんだよ。お前のせいで完璧遅刻じゃんか!」
あきらはわざとらしく袖を捲って腕時計を見せた。
「もともと完璧に遅刻だと思いますけど」
「ぐぐ…」
「それより、一緒に行きませんか?」
イヅキが、学校の方角を指差した。
「俺、反対方向だから」
手のひらを返して、彼が指さした反対方向に踏みだしたのだが、またもやイヅキに腕を掴まれた。
「地球一周でもする気ですか?」
「お前と行くくらいなら一周した方がマシじゃ~!」
ふう。と彼はため息ついた。
「杏さんに怒られ」
「行こうかイヅキ君」
180度回転して最短距離で学校を目指す。イヅキと一緒なのが彼はすごく嫌だったが、サボると杏にひどい目にあわせられるためだ。
「見てください。今日は日本晴れですよ。気持ちいいですね」
爽やかな笑顔を見せてイヅキが笑う。あきらは空を見上げた。
どこまでも続く青空が広がっている。果てしなく。だが、彼には少し悲しい感情が生まれた。その理由は全く心当たり無かったが…。
まだ五月の午前中にも関わらず、灼熱の太陽がじりじりと緑色のブレザーを脱がせようと焦がした。
「確かに…でも不思議だよな」
「何がです?」
「こんなに気持ちいい朝なのに、お前が隣にいるだけでこんなにも気持ち悪くなれるんだ」
「それは、愛の告白への下りですか!?」
「いっぺん頭かち割っていいか?」
一体どういう思考回路をしているのか見てみたい。
「冗談ですよ」
再び胡散臭い笑顔をあきらへと向けた。
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