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辰人はあきらや杏の2歳年上であり、兄のような存在だった。
施設で育った三人は、本当に仲のいい兄弟のようだった。
あきらが中学に進学し、親がいないことなどを馬鹿にした同級生と喧嘩をし、三対一の喧嘩で負けそうだった時辰人は
「あきらに手を出すんじゃねぇ~!!」
三階にある教室から飛び降り、裏庭にいた三人をぶん殴った。
こんなこともあった。
あきらが柄の悪い他校生徒(実は道を聞かれただけ)に声をかけられたとき、道を教えたお礼としてジュースを買ってもらったのだが、かつ上げしていると勘違いした辰人は烈火の如く怒り他校生徒をのしてしまった。
似たような事件が何件もあり、噂が噂を呼び、あきらには友達ができなかった。
「…ほんとに辰人は」
あきらは頭を抑えながらため息をついた。
「ん? なんだまたあの時のこと怒ってんのかよ」
「もうあの時の事がどの時の事かわかんないくらいだよ」
「照れるぜ」
「微塵も褒めてないよ」
頭を掻いて照れた辰人にあきらは突っ込んだ。
辰人は中学校を出るとともに工事現場の仕事に就職した。給料はいいらしいがとても辛い仕事のようだ。
辰人は、杏とあきらに毎月生活費を送っている。あきらもアルバイトをしているが、辰人の援助なしには今の生活を送るのは無理だっただろう。
あきらは辰人に対し悪態ついたりするが、兄のように慕いそして尊敬していた。
「あれ? あきらの隣に杏じゃなくて知らない男がまさか!?」
「あきら、杏と別れてその男と」
「やめろきしょいハゲろタコ」
「ひどっ!?」
言い終わった後、空気が少し変わったような気がした。イヅキと辰人の目が合った瞬間に。
二人は小さな声で言葉を交わしたようであったが、あきらには聞き取る事ができなかった。
「辰人達知り合いか?」
「んにゃ、初対面だ」
「そうか?」
「てか辰人仕事は?」
「もち遅刻だぜ!」
爽やかに白い歯をみせる辰人。
「さっさといけよー!」
「へいへい」
辰人は手をひらひらさせて立ち去る。
「あっ…辰人!」
ピタリと彼の足が止まった。
「その…いつもありがとな」
ふっと鼻で辰人は笑う。
「ツンデレめ」
「うるせぇ!」
辰人は素早く走り去って行った。
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