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通学路を友人や恋人と歩くのが学生としての夢や本分なのだが、今クラスメイトと登校しているあきらはちっとも嬉しい気持ちではなかった。
「…なんか喋れよ」
「え? 僕に言ってます?」
「あたり前だろ。他に誰か見えんのか?」
「ええ…白い着物を来て隣を歩いている女性が」
「お、お前マジでやめろ!」
あきらは慌てて左右を見渡した。もちろん誰もいない。
「冗談ですよ」
クスクスとイヅキは鼻で笑う。
「俺は今、お前と歩いているこの時間ほど無駄な時間を過ごしたことがない」
「ええ。僕もそうだろうと思います」
胡散臭い笑顔を返したイヅキをあきらはキッと睨んだ。
ああ…マジで無駄だ…。というか、イヅキが無駄だ。
あきらは深いため息を吐いた。
そんな会話と言えない会話を繰り返しながら、学校へ向かう心臓破りの坂。通称[地獄坂]に差し掛かる最後の交差点に近づいた時である。
あきらの目にふと交差点を渡りきって坂を見上げる少女の姿が目に入った。
「…あいつは!」
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